弾かれるようにサルは飛び起きた。けたたましく鳴る目覚まし時計を叩き止める。

 ハアアアアア。

 思いっきりため息をついて頭を抱え込んだ。あらためて時計を見ると午前8時過ぎだった。結局2時間しか眠れなかった。

 この部屋の主人である高松大学は、サルとの同居を心の底から嫌がり、別の部屋に退去していた。いまや20畳の空間を独り占めだ。

 おう、まさに天国じゃのう。最初こそ、そう喜んだが、すぐに誤りだと思い知らされた。

 廃寮を決定した大学当局と学生側の対立が激化していて、ときおり大学側は嫌がらせのように配電をストップした。対する学生側も自家発電で一歩も引かないかまえを見せるなど、実に物騒な場所と化していたのだ。

「ここに寝泊まりすればいい」堀井にそう言われたとき、「悪いのう」とお礼を言った自分を呪いたくなる。

 まさに絵に描いたような「アジト」。それだけに、得体の知れないサルがここに住み着いていても気にする人間は誰もいなかった。ましてや、いまは夏休み期間なので、そこかしこの部屋が空いていた。高松はそのどこかで起居しているようだ。

 ここに来てから、とサルは指を折る。まだ1ヶ月も経っていない。なのに、もはや身も心もぼろぼろだ。明け方まで酒場でドンチャン騒ぎし、へとへとになって駒場まで歩いて帰り、近くのコインシャワーで手早く体を洗って、この高松部屋のソファに倒れこむ。そして午前中には活動再開。そんな生活がずっと続いていた。あまりの忙しさに、まともに風呂につかるどころか寝る暇さえない。

 とことん働いてもらうわよ──。美月の言葉がよみがえる。ほんとに、とことん、だった。

 うーぅ。サルは布団のうえで唸った。

 そんなわしを見て、あいつらときたら「毎晩、合コン三昧で楽しそうだねー」「願いがかなって遊び放題だな」だとよ。っざけんじゃねえっつーの! わしは遊んで暮らすのを条件にこのチームに入ったんじゃ。それがどうしてこうなっちゃうわけ? 騙された? 騙しやがった?

 サルは誰もいない室内でひとしきりぶつぶつ呪詛を撒き散らすと、部屋の外に出て共同の流し台に取りつき、蛇口からじかに水を飲んだ。さすがの当局も電気は止めても、水は止めていなかった。

 うががががが。カルキくせぇ。

 すっかり寮生活も板についてやがる。


(つづく)