「由里子ちゃんの家がお金持ちだってよくわかったわね。あんた、あの部屋ですごく居心地悪そうだったのに」
「そうよ、じゃけえ、あの子を見たとき、おっ、と思った。こう、品があるっちゅうんかのう。あんな得体の知れん部屋のなかで、さわやかな高原の風、ちゅうんか。ええにおいがするんよ、あの手の本物のお嬢様には」
美月は黙っている。
「ま、あんたも由里子ちゃんの次に面倒くさそうだよな。昔は地味でおとなしかったのに、高校になってコギャルだなんだで、急に弾けた口だろ。そういう根性のひねくれたにおいがす……」
イッテエェ!! スピーカーから叫び声がこだました。きっと美月の厚底で蹴っ飛ばされたんだろう。
由里子は口許に拳を寄せ、小さく笑った。美月ちゃん、おさるさんの調教、なんか大変そう。でもこのおさるさん、すごく頭がいい。お兄ちゃんが言ったように飼いならしにくいタイプかも。
「あんたらのチームを手伝ってやってもいいけど、ぶっちゃけ、金はどうでもいい。その代わり、一生遊んで暮らせるようにしてくれ。それが条件かのう」
「言ってること、矛盾しまくってるわよ」美月が冷ややかな口調で言う。
「勘違いするなよ。遊んで暮らせる金が欲しいんじゃねえ。実際、金なくても楽しゅうやっとるしね。金じゃねえんだ、その街のいちばん華やかなところで好き勝手やるのって。毎日毎晩、旨いもん喰って、いい女とやって、おもしれえ連中とバカになって遊ぶ。そういう風にわしは生きていきたいの。しかもタダで。わかる?」
ある意味、もっともぜいたくな希望だ。
「だからさ、あんたらのチームに入る条件は、どこでもおもしろおかしく暮らせる方法と手段を俺に伝授すること。おたくの大将、そういうノウハウ知ってそうじゃん。それで手を打つ」
スピーカーのサルの声が急に大きくなった。「あんた、何すんのよ」美月の声が遠くから聴こえる。
「これで聴いてんだろ、のう、大将、頼んますよー、報酬の件」
由里子が椅子から立ち上がって言った。「すごいね、おさるさん」
堀井が苦笑いしながらうなずく。
「明日、いっぱい、バナナ買ってくるね。やっぱり好きだよね? バナナ」
23Bのアジトが笑いに包まれた。
1人、笑っていなかった高松が憎しみを込めるようにキーボードを必死に打ち込む。すると、人工音声で曲が流れた。
「♪厚底のムチー、バナナのアメー、おサルのちょ~きょ~」
さらにキーボードを人差し指でタンッと叩く。
「言う、こと、きかない、と、美月に、代わって、お、仕置き、よ!」
パソコンに取り込んだ美月の声で台詞を言わせる。
ニヤリと、高松がどや顔をする。
今度はアジトが震えるほど、みんな大声で笑った。
チーム全員がサルを受け入れた瞬間だった。
(つづく)